根系内における外生菌根菌の詳細分布

樹木の根には,多種の菌根菌が共生し,菌根を形成しています(研究ファイル「外生菌根菌の超多様性と群集構造」).しかし,多種の菌根菌が森林の地下部でどのように共存しているかについては,ほとんど明らかになっていません.そこで,地下部における菌根菌の詳細な分布を明らかにするために,1本の樹木根系に形成された全ての菌根の位置とそれらの菌根に共生している菌種を詳細に調べました.

樹木の根は土壌中を三次元的に広がっており,根系の位置を保持したまま菌根を採集することはとても難しいため,これまでは土壌中の菌根菌の正確な分布を把握することはできませんでした.本研究では,露岩上で更新する樹種として知られているコメツガに着目しました(図1).露岩上に生育しているコメツガ稚樹は,岩の表面に沿って根を伸長させるため,根系が二次元的に広がっています(図2).このような根系を用いることで,根系と菌根の正確な位置を把握することが可能になります.

八ヶ岳の亜高山帯針葉樹林内の露岩上からコメツガ稚樹(約10年生)を採集し,根系の位置を記録しながら全ての菌根を採取しました.そして,採取した菌根からDNAを抽出し,塩基配列を解析することで各菌根に共生していた菌根菌の種を同定しました.さらに,得られた結果から,菌種毎に菌根を色分けした根系図を作成しました(図3).

3本のコメツガ稚樹の根系を調べた結果,各菌根菌種がそれぞれ1~数cm程度のパッチ状に分かれて分布する傾向が見られました.この結果は,「菌根から伸びた菌糸が近くの根端に感染して新たな菌根を形成する」という菌根菌の感染拡大様式を反映していると推測されます.また,土壌中には様々な菌根菌種の感染源(胞子や菌糸の断片など)が存在するにも関わらず,種毎にパッチを形成していたことから,新たに形成された菌根から伸びた菌糸は,土壌中の他の感染源に比べて,菌根形成能力が高い,もしくは菌糸量が多いと推測されます.今後は,これらの仮説を実験的に検証したいと考えています.

図1

図1. 露岩上に更新したコメツガ.岩の上に形成されたリターとコケからなる厚さ約5 cmの土壌でコメツガが生育している.

図2

図2. 採集したコメツガ根系.全ての根端を採取してDNA解析を行った.

図3

図3. 露岩上から採集したコメツガ根系(図2)の菌根分布図(Yoshida et al. 2014より改変).×印の部分から幹が伸びている.1つの点が1つの菌根の位置を示しており,同じ色が同じ菌種を示している.各菌根菌種がそれぞれパッチ状に分布していることがわかる(点線で囲んだ部分).

2014.04.04
吉田尚広

論文:

Yoshida N, Son JA, Matsushita N, Iwamoto K, Hogetsu T (2014) Fine-scale distribution of ectomycorrhizal fungi colonizing Tsuga diversifolia seedlings growing on rocks in a subalpine Abies veitchii forest. Mycorrhiza 24: 247-257.
http://link.springer.com/article/10.1007/s00572-013-0535-6

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