外生菌根菌の超多様性と群集構造

菌根菌は土壌から窒素やリンなどの養分を集めて樹木に渡すかわりに、樹木からは光合成産物を受け取っています。実験室の特別な環境で育てない限り、樹木も菌根菌も単独では生き残れません。森の中で根を掘り出してみると、根の先端に形も色も様々な菌糸の塊(外生菌根菌と樹木の共生体)を見つけることが出来ます(注:ルーペが必要です)(写真を見たい方は「外生菌根菌が冷温帯林の森林更新に果たす役割の解明」「外生菌根菌の宿主域および群集の解明」)。いろいろな場所で菌根を観察してみると、頻繁に見られる菌根もあれば、たまにしか見つからない物もあります。いったい森の中にはどのくらいの外生菌根菌がいるのでしょうか。また、菌根菌と樹木の間には共生しやすい/しにくいというような相性があるのでしょうか。

これを調べるために、いろいろな樹木が混生している原生林と二次林から樹木の根を採取し、どのような菌根菌がいるのか調べてみました。しばらく前まで、菌類はキノコを作らない限り同定することが出来ませんでしたが、最近は土の中の菌糸のDNAから種を推定する方法(RFLP法)が開発され、見つけることの出来る菌根菌の種数は飛躍的に上がり、正確性も増しました。

8種の樹木の根を調べた結果、205種もの菌根菌が見つかりました。数が少なくて見つかりにくい菌根菌の存在を考慮すると、少なくとも300-400種の菌根菌いることが推測されました。また、細かく調べてみると、菌根菌には特定の樹木に偏って共生している種がいることも分かり、樹木によって菌根菌全体の種構成も違うことが分かりました(図1)。

図1
図1.宿主樹種ごとの外生菌根菌の類似性を平面上で表した図(DCA)。宿主は分類群ごとにまとまったため、近縁宿主間では外生菌根菌の群集構造も類似していることが分かった。(Ah:ウラジロモミ,Ts:ツガ,Bm:ウダイカンバ, Bg:ミズメ, Cj:クマシデ, Fc:ブナ, Fj:イヌブナ, Qc:ミズナラ。黒丸:二次林から採取した樹木、白丸:原生林から採取した樹木)

この研究はとても基礎的な研究です。私たちはようやく、東アジアの針広混合林に、どのくらいの外生菌根菌がいるのか想像できるようになりました。なぜ、宿主樹木に比べてこんなにも多くの共生菌がいるのでしょうか。なぜ、樹木によって異なる菌根菌がついているのでしょうか。地面の中にはまだまだ分からないことがたくさん残っています。

この研究に関する詳細は以下の論文をご覧下さい。

少しだけ詳しい結果を知りたい方は以下のPDFファイルをご覧下さい(288KB)。

2007.06.10
石田孝英

メンバー紹介のページに戻る トップページに戻る