ナラ類白粒葉枯病菌の生態と病原性に関する研究

近年,森林と人間との関わりは,木材生産を行うための経済的な側面から,土壌および水資源の保全・維持,生物多様性の保全,地球温暖化への寄与といった森林の多面的な機能を環境財として評価する方向へ変わりつつある.特有の生態系が存在するという点から注目されている森林の1つに里山林があるが,古くから人の手が加わることにより維持されてきた生態系が長期間の放棄されたため衰退し,各地で問題となっている.本研究では,里山林を構成する樹木のうち,主要な樹種のひとつであるナラ・カシ類樹木に着目し,その衰退・枯死を引き起こしている直接的な原因のひとつである植物病原菌の生態,特に繁殖様式や感染機構を明らかにし,病害の生態的な管理方法の確立に応用することを目的としている.

現在私が研究しているナラ類白粒葉枯病は,ナラ類樹木に発生する葉枯性病害で,1980年代後半から中国地方を中心に被害が顕在化した.この病気は最初に苗畑病害として報告されたが,稚樹だけでなく壮齢木にも被害をおよぼし,早期落葉を引き起こすことで樹木の健全性に影響を与えていると考えられる.病気を防除・管理するために,病原菌の生態的な特性を知ることは重要であり,生態的特性の理解には菌類の分類学研究は欠かせない.また,病原菌の生活史と宿主植物への感染経路,および植物側の応答を明らかにすることも非常に興味深い.本研究では,ナラ類白粒葉枯病菌の分類学的位置を特定するため,有性世代の形態分類と遺伝子解析による系統分類の両面から所属を検討している.また,生活史と病原性を明らかにするために,苗木の葉に培養した菌を接種して病徴を再現するとともに,病原菌がどのように植物に感染し,病気を引き起こしていくのかを光学顕微鏡・走査型電子顕微鏡レベルで追跡している.

2005.07.27
高橋由紀子

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白粒葉枯病菌に侵されたクヌギ

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