マツ材線虫病の枯死機構について

マツ材線虫病とは,マツノザセインチュウと呼ばれる,体長1ミリメートルほどの小さく細長い虫が,松に侵入して枯らしてしまう病気です.マツノザイセンチュウがアメリカ由来であるため,日本の松は免疫を持っておらず,侵入を許してしまうと,ひと夏のうちに松が枯れてしまう事がほとんどです.また,日本には枯れたマツから健全なマツへとマツノザイセンチュウを運ぶマツノマダラカミキリがいるため病気がどんどん広がり,日本の松林は甚大な被害を受け続けています.現在では韓国,中国などの東アジア諸国での被害が問題となっている他,ヨーロッパでもマツノザイセンチュウの侵入が確認されたこともあり,世界的な問題へと拡大しつつあります.

松に傷を付けるとヤニと呼ばれるどろどろした液体が出てきます.このヤニは一般に昆虫や菌の侵入から松自身を守る役割を果たしていると考えられています.しかし,マツノザイセンチュウに対してはヤニが効かず,逆にマツノザイセンチュウはヤニが流れる通路(樹脂道)のネットワークを利用して全身へと分散します.マツノザイセンチュウに感染した松では,細胞の変性が引き起こされ,様々な生理的な変化が認められます.特に通水組織に気体が入り込む「キャビテーション」という現象は根から葉へと水を吸い上げる機能を低下させて松の萎凋(葉が萎れること)を引き起こすため重要です.

私はマツ材線虫病の枯死機構を明らかにしたいと思っていますが,特にマツノザイセンチュウに感染したマツの細胞の反応というものに興味を持っています.というのも,本病において認められる生理的現象はマツノザイセンチュウの何らかの刺激(摂食,分泌物など)に対する細胞の反応の結果であると考えられるためです.そこでマツ組織に対してマツノザイセンチュウを接種し,細胞の反応を観察・測定することによって本病のメカニズムの解明を目指しています.

2006.09.13
小松雅史

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(左)マツノザイセンチュウ
(右)マツノザイセンチュウを接種して枯死したクロマツ

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