ナミダタケモドキの新たな隠蔽種の発見

ナミダタケモドキSerpula himantioidesは、南極大陸以外のすべての大陸で報告されている木材腐朽菌です。本種は自然環境下でさまざまな広葉樹や針葉樹を腐朽させるだけでなく、木造建築物の腐朽にも関与することが知られています。日本では、埼玉県、茨城県において、サワラの高齢林で腐朽病害が報告されており、感染木の風倒被害なども問題になっています。
 近年の分子系統解析によって、ナミダタケモドキには複数の隠蔽種(形態では区別がつかないが生殖的に隔離された種)が存在することが明らかになってきました。DNAの複数領域をもとに行われた系統解析では、本種が5つの隠蔽種を含み、そのうちいくつかは限られた地域にのみ分布する可能性が指摘されました。
 今回、私たちは、国内で採取されたナミダタケモドキの菌株を用いて系統解析を行い、日本産菌株がどの隠蔽種に含まれるかを調べました。その結果、日本産の菌株は既知のいずれの隠蔽種にも含まれず、新たな隠蔽種である可能性が示唆されました。

今回発見された新たな隠蔽種が、日本にのみ分布するのか、それとも他の地域にも分布するのかを明らかにするためには、さまざまな地域でサンプリングをする必要がありますが、すでに示唆的なデータも得られています。私たちが研究を行う前、2004年に行われた系統解析では、日本産の菌株とインド産の菌株が系統樹上で1つのグループを形成したことが明らかになっています。もしかすると新しい隠蔽種はアジア地域においては普遍的に分布しているのかもしれません。

2023.03.14
岩切鮎佳

図1
図1. ナミダタケモドキによるサワラの根株心腐被害

図2
図2. ナミダタケモドキの子実体

論文:

1. Iwakiri A, Ota H, Matsushita N, Haraguchi R, Yamada T, Fukuda K (2023) Multilocus phylogenetic analysis revealed a new cryptic lineage of Serpula himantioides in Japan. Forest Pathology: (Published online). https://doi.org/10.1111/efp.12805

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