小石川樹木園通信 No.04
樹木園担当 佐々木潔州
樹木園のブナ属3種
今回は、春の新葉が美しいブナの仲間を取り上げます。 ブナの仲間は温帯を代表する樹木で、日本にはブナ Fagus crenata Blumeとイヌブナ Fagus japonica Maxim.が生育していますが、この2種は日本固有種です。現在小石川樹木園にはこれらの2種の他に、韓国ウルルン島の固有種タケシマブナ Fagus multinervis Nakaiが植栽されています。 三種の違いは、葉の裏を見ればわかります。3種とも4月の新葉展開直後は葉の裏面全体に軟毛がありますが、ブナとタケシマブナは5月の初旬ぐらいには葉脈上の毛を残すだけになります。特にブナの毛は,葉脈上でも注意しなければ見えなくなります。 |
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![]() Fagus crenata Blume ブナ |
![]() Fagus japonica Maxim. イヌブナ |
![]() Fagus multinervis Nakai タケシマブナ |
葉の毛は毛状突起とも呼ばれ,表皮細胞に起源があります。ブナの毛は単純な軟毛ですが,モチツツジの腺毛(先端が球状で粘液を分泌する)ウツギやヤブムラサキなどの星状毛(一点から多数の毛が放射状に伸びる)など、特異的な特徴を持つものもあり重要な種の識別点になります。毛が脱落するブナ、タケシマブナと残存するイヌブナとの違いがどこから生じるものなのか興味深いものです。ブナの葉の毛は、乾燥防止や昆虫などによる食害防止の機能があるとされていますが、本当のところは不明です。 |
小石川樹木園のイヌブナでは数年に1回、タケシマブナでは10年に1回ぐらい開花を確認しています。樹齢はイヌブナ、タケシマブナとも50年以上になり、イヌブナの樹高は20mを超え、タケシマブナは14mほどです。雌花と果実については、イヌブナは果柄が長く雌花、果実(殻斗)は小さく、タケシマブナの果柄はイヌブナと同じぐらいで雌花、果実(殻斗)はより大きいという違いがありました。(ブナの果柄はイヌブナの半分ほど、雌花、果実は3種の中では最も大きくなる)ただし、どちらも健全な種子は出来ませんでした。イヌブナとタケシマブナは樹皮や株立ちする樹形などは良く似ていて、雌花、果実(殻斗)と葉の裏の毛の量が識別点ということになります。小石川樹木園のブナの樹齢は30年以上ですが、光環境の悪いところに植栽されているためか,一度も開花していません。成長も悪く、樹高も10mを超えていません。 |
![]() タケシマブナ 2005年開花時 |
その他、かつてはヨーロッパのブナ林に優占するヨーロッパブナもあったので、いつか新たに植栽したいと思っています。 |
2012.03.31