外生菌根根外菌糸体の結合による栄養転流ドメインの拡大

外生菌根菌は森林樹木と共生して根に菌根を形成する.外生菌根からは菌糸が伸び,土壌中に根外菌糸体が発達する.一つ一つの菌根から発達した根外菌糸体は,互いに融合したり別の根に菌根を形成して新たな根外菌糸体を発達させたりして,一種の菌糸体ネットワークを形成すると考えられている.樹木には多数の外生菌根菌種がパッチワーク状に共生しており,実際の森林林床下では様々な菌種の菌糸体ネットワークが共存している.それぞれの菌糸体ネットワークは,菌種間の体細胞和合性の程度により互いに物理的に結合したり排斥しあったりすると考えられる.宿主からの炭素栄養や根外菌糸により吸収されたリンや窒素が,共存する菌糸体ネットワーク間をどのように移動するかは,外生菌根共生の生理学的メカニズムを理解する上で極めて重要である.

これを踏まえて,本研究では,遺伝的異なる2つの菌根菌株の根外菌糸ネットワーク間の相互作用及び炭素・リン酸の物質転流との関係を,経時的オートラジオグラフィー法(研究ファイル「外生菌根共生系における物質転流を可視化する」)を用いて調べた.この2菌株の菌根苗を根箱のオアシス上に移植し,菌糸体が十分に伸長してからオアシスごと切断し,同様に切断した別の菌根苗の菌糸体と隣り合わせて接触させ2週間栽培した.同菌株菌糸体間では接触部で菌糸の融合が起こった.融合した菌糸は菌糸束を形成する傾向があった.異菌株間では菌糸の融合は起こらず,接触部より相手の菌糸体がある領域内に菌糸が伸長することも無かった.接触後2週間後に,片側の苗の地上部に14CO2を与えることで光合成産物の標識と,片側の苗の根外菌糸体に33Pの標識をそれぞれ行い,経時的オートラジオグラフィーを行った.14C標識の結果では,同菌株の菌糸体間で14Cの移動が観察されたが(図1A),異菌株間では14Cの移動が全く見られなかった(図1B).33P標識の結果においても,同菌株の菌糸体間では,33Pは菌糸体結合部を通過し反対側の菌糸体や菌根,地上部に転流したことが判明した(図1C).異菌株間では33Pの移動が全く見られなかった(図1D).このことから互いに和合性である同菌株間では菌糸の融合部を通して14Cや33Pの移動が起こったと考えられる.実際の森林林床下では,菌糸体ネットワーク間の融合によって物理的に結合する菌糸体は空間的広がり,機能的にも炭素栄養や,リンなどの無機栄養の転流ドメインを拡大することができ,生態的に大きな意味を持つと考えられる.

図1

図1.コツブタケ(Pisolithus sp.)の菌叢間における14Cおよび33Pの転流 (Wu et al., 2012より改変).同菌株間では,14Cおよび33Pの転流があったが(A とC),異菌株間では,14Cおよび33Pいずれの転流もなかった(BとD).左は写真; 右はオートラジオグラフ.点線は菌叢間の接触ラインを示す.

2013.06.21
呉炳雲

論文:

Wu BY, Maruyama H, Teramoto M, Hogetsu T (2012) Structural and functional interactions between extraradical mycelia of ectomycorrhizal Pisolithus isolates. New Phytologist 194: 1070-1078.

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