外生菌根共生系における物質転流を可視化する

外生菌根菌は樹木の根と共生し,土壌の中で根外菌糸を発達させてリン酸や窒素を吸収し,菌根を介して宿主に受け渡すことで宿主の成長を促進しています。一方,外生菌根菌が必要とする炭素源は,宿主樹木の光合成産物から供給されています。外生菌根共生は世界中の森林で見られるごく普通の現象であり,地面の下で密かに森林の維持や発達を支える重要な役割を担っていると考えられています。

このような樹木と菌類の外生菌根共生系における炭素やリン,窒素などの物質の流れを追う上で,放射性同位体(14C, 32P, 33P)や安定同位体(13C,15N)といったトレーサーを用いた試験は,非常に有効な手法として用いられてきました。近年ではイメージングプレート(IP)を用いたデジタルオートラジオグラフィー技術により,定量的かつ経時的なオートラジオグラフィーが可能になりました。私たちはこの技術を用いて,外生菌根共生系における物質転流を可視化することを試みています。

リン(P)の移動:菌根菌から樹木へ

根箱を用いて,クロマツ(Pinus thunbergii)-コツブタケ(Pisolithus sp.)の菌根苗を栽培し,菌叢の一部に33Pを吸収させ,その後の動きを,IPを用いた経時的オートラジオグラフィーによってモニターしました(図1).標識1日後から2日後にかけて,33Pが菌叢や菌根に移動し蓄積され,その後,徐々に宿主の地上部に転流することが明らかになりました。

図1

図1.外生菌根共生系における33Pの転流(Wu et al. 2012より改変)
クロマツ-コツブタケ外生菌根共生系の菌叢に33Pを標識し,その動きを経時的オートラジオグラフで示した。

炭素(C)の移動:樹木から菌根菌へ

クロマツ─コツブタケの菌根苗に,光合成によって14CO2を植物の地上部に取り込ませました。14Cは,1日以内に地下部へ移動し,菌根を介して菌叢全体に広がりました(図2)。さらに,3日目には,取り込ませた14Cの24%が菌叢にあることが示されました。

図2

図2.外生菌根共生系における14Cの転流(Wu et al. 2002より改変)
クロマツ-コツブタケ外生菌根苗に14CO2を針葉から光合成で取り込ませてから24時間後の14C分布を示した。

以上のように,外生菌根菌は,強いCシンク能と強いPシンク能を併せ持っています。また,宿主に対して,外生菌根菌は効率的なPソースでもあります。私たちのトレーサー実験により,Cは主に宿主から菌根菌へ,P は土壌から根外菌糸・菌根を経由して宿主へという転流経路を明確に示すことができました。

2013.05.28
呉炳雲

論文:

Wu BY, Nara K, Hogetsu T (2002) Spatiotemporal transfer of 14C-labeled photosynthate from ectomycorrhizal Pinus densiflora seedlings to extraradical mycelia. Mycorrhiza 122: 83-88.

Wu BY, Maruyama H, Teramoto M, Hogetsu T (2012) Structural and functional interactions between extraradical mycelia of ectomycorrhizal Pisolithus isolates. New Phytologist 194: 1070-1078.

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