クロミサンザシ白粒葉枯病菌Mycopappus alni の5科の樹木に対する病原性と侵入部位

Mycopappus alni は,絶滅危惧種であるクロミサンザシの葉に感染し,葉枯れと早期落葉を引き起こす病原菌です(研究ファイル参照).この菌は北米やヨーロッパにも分布していますが,これらの地域ではカバノキ科のハンノキ属やカバノキ属,バラ科ナシ属の樹種が宿主になっています.そのため日本でも,M. alni がクロミサンザシ以外の樹種に病気を起こすかもしれません.そこで,日本産樹種に対するM. alni の病原性を調査しました.また,M. alni の葉への侵入過程も併せて調査しました.

実験にはM. alni の宿主として報告のあるカバノキ科とバラ科,M. alni に近縁なM. quercus の宿主であるブナ科,未同定のMycopappus 属菌の宿主であるマンサク科とクルミ科の計5科21樹種を用いました.鉢植えしたそれぞれの樹種の葉の裏面に,クロミサンザシから分離培養したM. alni の菌糸を接種しました.その結果,カバノキ科,バラ科,クルミ科およびマンサク科の14種に,本病に特徴的な病斑が形成されました(図1).このことから,M. alni は,これらの樹木にも葉枯病を引き起こす恐れがあることがわかりました.

接種した葉の病徴
図1Mycopappus alni 接種によって形成された葉の病斑(接種2日後).A ハンノキ;B ケヤマハンノキ;C シラカンバ;D ツノハシバミ;E イヌシデ;F ザイフリボク;G クロミサンザシ;H ナナカマド;I アズキナシ;J カマツカ;K カリン;L ブナ;M クリ;N マルバマンサク;O オニグルミ;P サワグルミ.

Mycopappus alni を接種したクロミサンザシについて,接種部付近の葉の裏面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察しました.また,葉の切片を作成し,菌糸を蛍光標識レクチン(F-WGA)で染色して蛍光顕微鏡で観察しました.その結果,M. alni の菌糸が気孔から植物体内に侵入することがわかりました(図2).

気孔から侵入する菌糸
図2.クロミサンザシ接種葉におけるMycopappus alni の菌糸の侵入と葉内の菌糸分布.A クロミサンザシ葉裏面の気孔から侵入するM. alni の菌糸(SEM像);B 変色した葉組織内における菌糸の分布(F-WGA染色).緑色の蛍光を発しているのが菌糸.スケールバー A 15 μm;B 50 m.

一方,ブナ科の樹種では,ブナとクリに対しては接種部をわずかに変色させる程度の病原性しかなく,コナラ属樹種に対しては病原性がないことがわかりました(図1-L, M).様々な広葉樹の樹種に感染するM. alniが,どうしてブナ科の植物には感染しないかはわかっていません.美味しくないんでしょうか?

2010.4.26
髙橋由紀子

論文:
髙橋由紀子・松下範久・寳月岱造. 2007. Mycopappus alniの病原性と宿主範囲. 樹木医学研究11: 126-127.
髙橋由紀子・松下範久・原田幸雄 ・寳月岱造. 2008. クロミサンザシ白粒葉枯病菌Mycopappus alni の5科の樹木に対する病原性と侵入部位. 日本植物病理学会報 74: 140-147

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