クロミサンザシの新しい病気―白粒葉枯病

クロミサンザシ(Crataegus chlorosarca)は北海道と長野県菅平に分布するバラ科の落葉小高木で,2000年に発行された環境庁のレッドデータブックにおいて,「ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種」とされる絶滅危惧IA類にリストされている希少な植物です.

このクロミサンザシにおいて,葉が褐色に枯れあがり,早期に落葉してしまう被害が発生しました(図1).

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図1.白粒葉枯病で枯れあがったクロミサンザシ(左)と罹病葉の様子(右).

この病気にかかった葉っぱは,図1(右)のように淡褐色から褐色,不整形に枯れ,変色部には白色から淡褐色の粒病菌体が多数形成されます.似たような症状の病気で,ナラ類白粒葉枯病という病気が知られています(参照).ナラ類の白粒葉枯病はMycopappus quercus という糸状菌によって引き起こされます. クロミサンザシの葉枯病に見られた病徴・標徴がナラ類白粒葉枯病に似ていることから,この病気がMycopappus属菌によって引き起こされていると疑われました.そこで,クロミサンザシの葉枯病菌を形態,培養性状,遺伝子解析,および病原性の面から調査し,病原菌の所属を検討しました.

結果,この病原菌を北米・トルコにおいて発生の報告があるMycopappus alni と同定しました(図2).Mycopappus alni はカバノキ科のハンノキ属・カバノキ属およびバラ科ナシ属に寄生する菌です.日本でこの菌が確認されたのは初めてであり,またこの菌にとってサンザシ属は新たに発見された宿主植物です.クロミサンザシは自生する場所がごく限られているせいか,これまで病気の報告がありませんでした(日本植物病理学会 2000).白粒葉枯病はクロミサンザシで分かっている唯一の病気です.

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図2.粒状菌体の顕微鏡写真.スケールバーは0.1mm

2006.9.22
高橋由紀子

引用文献:日本植物病理学会(編). 2000. 日本植物病名目録. 857 pp, 日本植物防疫協会, 東京.

論文:Takahashi Y, Matsushita N, Hogetsu T, Harada Y. First report of Mycopappus alni in Japan: species identification of the pathogenic fungus of a frosty mildew disease in Crataegus chlorosarca. Mycoscience 47:388-390, 2006.

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