マツタケの人工栽培に挑戦

日本人が万葉の時代から親しんできたマツタケ。しかし現在,私たちの食卓に上るマツタケの95%以上は輸入により賄われています。数多くの報道で注目をあびるマツタケの人工栽培ですが,近縁種も含め成功した例はありません。1千億円市場にもなると言われるマツタケの人工栽培は,果たして不可能なのでしょうか。

日本のマツ林が危ない

マツタケは,1940年代には国内で年間1万トン以上も生産されていましたが,近年では百トン以下にまで減少しています。この原因は,マツタケが生育するマツ林の荒廃にあります。

マツ林は,農山村の人々による定期的な伐採や肥料・燃料のための落葉採取によって,維持・管理されてきました。しかし,高度成長期以降の化石燃料や化学肥料の普及に伴い,その管理が次第におろそかとなりました。さらに,マツ材線虫病により,北海道と青森県を除くマツ林が壊滅的な被害を受け,マツ林の荒廃が急速に進んでいます。マツタケ生産量の激減は,わが国のマツ林生態系の危機の象徴でもあります。

マツタケ人工栽培法の確立

マツタケは,生きたマツの根に感染して菌根と呼ばれる共生体を形成しないと増殖することができません。そのため,マツタケの人工栽培は,1) マツの根にマツタケ菌を感染させて菌根を形成させ,2) シロと呼ばれる菌根と菌糸の集合体に発達させ,3) 野外に導入して子実体(キノコ)を発生させる,という3つのステップにより可能になると私たちは考えています。第1のステップについては,アカマツの苗木や成木の根に,数週間でマツタケ菌根を形成させる方法を確立しました(写真1)。第2のステップについては,土に界面活性剤や植物油を添加することにより,マツタケ菌糸の迅速な大量培養が可能になりました(写真2)。この際,マツタケ山の土を含めて様々な土でマツタケ菌を培養してみましたが,最も身近にある東大弥生キャンパスの土が最適でした。現在は,全国各地のアカマツ林において,第3のステップの実現を目指した研究に取り組んでいます。マツタケの人工栽培を実現し,人々が再びマツ林を利用するようになったとき,かつてのような日本の美しいマツ林が蘇ることでしょう。

(弥生43: 4, 2006)

2006.10.23
松下範久

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写真1 マツタケ菌根の人工合成。培養条件の改良により2週間で菌根(白色の部分)を形成させることに成功しました。

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写真2 東大弥生キャンパスの土に界面活性剤を添加した培地で,1ヶ月間培養したマツタケの菌糸(右)。無添加の培地(左)に比べて菌糸成長が数倍促進されました。この理由を明らかにするために,界面活性剤や植物油を添加した土とマツタケ菌糸成長との関係についての研究にも取り組んでいます。

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