天竜川砂防堰堤堆砂地への樹木の定着過程

日本の河川のほとんどはその源を急峻な山地に発しています。河川は山地を下る際に土砂を生産します。このため、河川は集中豪雨の際などに土石流などの土砂災害を引き起こし、下流域の住民の生活を脅かしてきました。これら土砂災害への対策として、渓流域には砂防堰堤(図1)の建設が行われています。従来、砂防堰堤の建設や管理は工学的観点を主体に計画されてきました。しかし、砂防工事が行われる場所が、河川の上流域・源流域であること、そしてこの付近には流域レベルで残された原生的な環境が残っていることから、砂防堰堤の建設が自然環境に与える影響について考慮することが重要だと考えます。それ故、今後は生態学的観点をも導入した“環境保全型”砂防事業を体系化し推進する必要があります。

堰堤建設に伴い観察される生態的変化の一つに、満砂後の堆砂地上への樹木定着(図2)があります。これらの樹木定着により堆砂地上に植生群落が形成され、その後、人為や大きな撹乱が加わらなければ、周囲の森林とは種構成が異なった独特の生態系からなる山地河畔林へと発達することが予想されます。砂防堰堤堆砂地上に形成される植生群落には、景観の回復、動植物の回廊・避難場所、小規模土石流の防止といったプラスの面が考えられる一方で、外来種の定着や定着した樹木の流木化といったマイナスの面も考えられています。従って、堆砂地上の樹木定着やその後の遷移過程を知ることは、堆砂地上に形成される渓流生態系の特徴を把握する上でも、“環境保全型”砂防事業を推進する上でも重要です。

本研究では、天竜川支流に建設された砂防堰堤堆砂地を対象として、成立間もない植生群落での樹木の定着過程を把握することを目的としています。

現在までの結果を少し。

現在調査した場所は長野県飯島町の与田切川に建設された飯島第5砂防堰堤の堆砂地上です。

堆砂地上には2つのパッチが確認され、20科27属46種の木本植物がありました(パッチ1には38種1152個体、パッチ2には30種338個体)。両パッチとも遷移の様子には似通った傾向が見られました。

堆砂地上に多く定着していたヤナギ(Salix bakko)について分子生態学の手法を用いて、親子解析をした結果、パッチを構成する樹木の大部分はパッチ外の種子由来であることが確認され、パッチ内で個体繁殖が行われていないことが明らかになりました。

今後は、サイトを増やしより一般性を持たせた研究に発展させていく予定です。

2006.10.12
黒河内寛之

photo1
(図1)飯島第5砂防堰堤

photo2
(図2)堆砂地上のパッチ

メンバー紹介のページに戻る トップページに戻る