外生菌根菌の遷移と胞子発芽率

裸地上に定着する植物にはある程度順番があることがわかっています(研究ファイル「富士山火山荒原における先駆植物の定着様式」)。これを植生遷移と呼びますが、植物と共生する外生菌根菌にも遷移と呼べるような定着の順番があることが最近の研究からわかりました。それでは、このような菌根菌の遷移順序はどのようにして決まっているのでしょうか。

富士山火山荒原に多く見られる外生菌根菌のキノコ(図1)から胞子を採取し、いろいろな条件において発芽した胞子の数を数えてみました。また実際に胞子から菌根が出来るか調べるために土の中に胞子を混ぜて、宿主となるミヤマヤナギを植えてみました。

図1
図1.富士山火山荒原で優占する外生菌根菌の一種のウラムラサキのキノコ。本種はミヤマヤナギとともに遷移の最初期に現れることがわかっている。

その結果、菌根菌の胞子は宿主となる植物がなければほとんど発芽しないこと、宿主の根が近くにある場合にはいくつかの種で胞子が発芽し、特に遷移の早い段階から現れる種で発芽率が高いことがわかりました(図2)。一部の種は、遷移順序が遅いにも関わらず高い発芽率を示しましたが、これらの種は胞子の寿命が短いらしく、土に混ぜた場合には一年後にはほとんど菌根を作らないこともわかりました。

図2
図2.2週間培養した場合の外生菌根菌の胞子発芽率。横軸のアルファベットは外生菌根菌の種名を表す(リンク先のPDFファイルを参照)。1次~3次出現種は遷移順序を表す。胞子のみ、または非宿主と培養した場合(A,B)、胞子はほとんど発芽しないが、宿主のミヤマヤナギとともに培養した場合(C)は多くの種で胞子が発芽した。また、発芽率は遷移の初期に現れる種で一般的に高く、遷移の後期に現れる種で低かった。Hm, Hl, Hp(いずれもワカフサタケ属の種)は例外的に高い発芽率を示したが、胞子を土と混ぜて保存した場合、一年後にはほとんど菌根形成能力を失っていた。

これらのことから、外生菌根菌の胞子の発芽能力には種間で差があり、新たな宿主に感染する能力の高い種(胞子の寿命が長くて、宿主の根が近くに来た場合に素早く反応できる種)が、植生遷移の初期段階で宿主の成長を助けていることがわかりました。

もう少し詳しく知りたい方は以下のPDFファイルをご覧下さい。

2007.06.17
石田孝英

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