研究概要


森林植物学

森林植物学研究室は,1893(明治26)年に帝国大学農科大学に設置された「植物学講座」に由来します.設置当初は,帝国大学理科大学出身の白井光太郎(植物病理学講座初代教授),池野成一郎(ソテツ精子の発見者),草野俊助(日本菌学会初代会長)らが担当しました.その後,植物病理学講座(1906年),水産植物学教室(1911年)が独立し,植物学講座の教育研究の中心は森林植物学になりました.1941(昭和16)年の学科制度発足に伴う再編により農学部共通講座は各学科に配置されることとなり,植物学講座は林学科(現:森林科学専攻)に配置されました.1943年(昭和18年)に森林利用学講座出身の猪熊泰三が林学科配属後の初代教授となり,1954(昭和29)年に森林植物学講座に改称されて現在に至っています(沿革).

森林植物学(Forest botany)とは,森林管理(森林保全・森林経営)に資するための応用植物学であり,森林に生育・生息する植物・微生物を対象とした分類学,形態学,生態学,生理学,遺伝学などを含みます.森林植物学は,その基礎となる植物学の分化発展(植物分類学,植物生理学,生態学,菌類学などへ)にともなって,樹木学,樹木生理学,樹病学,森林生態学などの諸分野へと分化発展してきました.最近では,樹木医学や自然環境学などの分野の発展にも貢献しています.

現代における森林植物学の目標は,「森林に生育・生息する植物・微生物」に関する知見を積み上げることにより,「森林生態系や樹木個体の健全性を維持する」ことです.森林植物学は,森林の育成,森林保全,希少種の保全,樹木病害防除などの基礎となる分野です.世界各地で都市化,農地開発等による森林面積の減少,残存樹林の孤立・断片化や,温暖化,大気汚染などの環境ストレスによる樹木の衰退枯死,グローバル化に伴う侵入病害の流行など,森林生態系へのさまざまな脅威が報告されています.また街路樹や都市公園の樹木,里山などの身近な「みどり」を守るため各地で活躍する「樹木医」(注)の診断治療の基礎となる「樹木医学」の確立が求められています.今ほど森林と樹木の健全性維持のための知見が求められている時代はありません.

森林植物学が取り組むべき課題は,大きく3つあります.これらの課題はお互いに関連しあっています.

  1. 森林における植物と菌類の生態に関する研究:森林生態系を構成する樹木,草本植物,菌類の多様性と生態について幅広く研究しています.植物・菌類の繁殖様式をDNA多型解析によって明らかにする研究や,都市近郊の孤立林における菌類の種多様性の研究,現在の植生に対する過去の伐採や埋立地への植栽などの林分履歴の影響を明らかにする研究など,多彩なテーマがあります.
  2. 樹木個体の健全性とストレス応答に関する研究:水不足や低温,病原体の感染などの「ストレス」に対する樹木の健全性維持機構について研究しています.光合成・蒸散などの生理学的測定,解剖や蛍光染色による組織学的観察,遺伝子発現解析などの手法に加えて,世界初の樹木専用MRI(核磁気共鳴画像)装置を用いた樹木の木部通水阻害の発生と回復に関する研究などを行っています.
  3. 樹木と微生物の相互作用に関する研究:樹木と共生して養水分吸収を助ける外生菌根菌やアーバスキュラー菌根菌,樹木に病害を引き起こす病原菌や線虫,樹木の葉や樹皮に常在している内生菌,林床のコケ群落上で窒素固定を行うシアノバクテリアなど,樹木を取り巻く多様な微生物の生態の解明と,樹木との相互作用の解明を目指しています.なかでも,樹木医による診断治療の基礎となる街路樹の腐朽被害,林産物として重要なマツタケ,日本最大の樹木病害であるマツ材線虫病などは特に重要な研究テーマです.

注)「樹木医」は,樹木の診断治療や保護育成,普及啓蒙などを行う専門家として,一般財団法人日本緑化センターが認定する資格です.樹木医は7年間の業務経験を有することが受験要件となっていますが,農学部で開講されている指定科目を履修し「樹木医補」として認定されると,経験年数が1年に短縮されます(樹木医補認定制度).


last update: 2017/07/05

トップページに戻る