小石川樹木園通信 No.05
樹木園担当 佐々木潔州
トチノキの仲間
トチノキ(Aesculus turbinata Blume)は温帯林の湿潤な立地条件に生育し、栗の実に似た果実は渋抜きをして食用にし、焼酎につけて打ち身などの民間療法に用いることもあります。
樹高は20から30 mに達し、渓流沿いに巨木を見ることもあります。葉は対生し、5から9の小葉からなる掌状複葉(画像参照)で、葉の縁には鋸歯というギザギザがあります。
街路樹にもなっていますが、東京近郊の乾燥する環境下では、衰退しているものも見かけます。樹木園にある個体は多少隣の樹木の蔭になって健全とはいいがたいですが、周囲にはかなりの数の実生が見られます。理学系研究科植物園にあるものは健全のようで、さらに多くの果実をつけています。
ベニバナトチノキ | キバナトチノキ |
小石川樹木園でトチノキというとベニバナトチノキ(A.× carnea Hayne)が最も目立っています。これはパリの並木で有名なマロニエ、またの名をセイヨウトチノキ(A. Hippocastanum L.)と北アメリカ産のアカバナトチノキ(A. pavia L.)の交配種といわれていますが、4月上旬から淡紅色の目立つ花をつけます。葉の縁のギザギザは重鋸歯(大きな鋸歯の縁に小さな鋸歯がある)という、日本のトチノキと比較するとはっきりわかる特徴を持っています。アカバナトチノキは単鋸歯なのでマロニエの重鋸歯を形質として受け継いだのでしょう。
アカバナトチノキはベニバナトチノキとほぼ同じ時期に、より赤色の強い、長さの割に径の小さい花を着けます。樹木園の環境にはあまり合わなかったようで、衰退・枯死してかなり数が減ってしまいました。マロニエも多数植栽されていたのですが、徐々に枯死し、現在では残っていません。
ベニバナトチノキ | キバナトチノキ |
樹木園にはもう1種、キバナトチノキ(A. flava Ait.)があります。北アメリカ原産で、他のトチノキの仲間と比べると小葉が細長いのが特徴です。5月に淡黄色の花を着けます。樹木園には1個体を残すだけになってしまったのですが、果実を着け実生もあります。ただし、実生はトチノキ?との雑種になっている可能性があります。
ちなみに日本のトチノキの冬芽は先がとがるものもあり、粘液のようなものが着きべたべたします。ベニバナトチノキとアカバナトチノキ、キバナトチノキはあまりとがらず、粘液状のものはついていません。何かの役割があると考えられますが、現在のところ不明です。
ベニバナトチノキ | キバナトチノキ | トチノキ |
2018.12.26